【社長ブログ】読書感想文

『長安のライチ』 馬伯庸

私の一人娘も、今では立派に(たぶん)会社勤めをしています。

横浜方面の会社に勤めているので、気ままな一人暮らしを楽しんでいるようです。

先日、ヨーロッパ出張から帰ってきた娘に本を渡されたので、「お土産かな」と思ったのですが、日本で出版されている本でした。

私も本が好きなので、娘が小さい頃は暇さえあれば読み聞かせをしていました。

英才教育なんて何もできませんでした。(自分に特別な才能があるわけでもないのに、「英才教育」なんておこがましい話ですが。)それでも、本好きになってくれたのは、多少なりとも読み聞かせの効果があったのかなと思っています。

そして今では、私なら本屋で買うのを少しためらってしまう二千円、三千円もする単行本を娘が買い、読み終えたら私に回してくれます。

考えてみれば、居酒屋で生ビールを三、四杯飲めば、あっという間に二千円を超えてしまいます。それに比べれば、本は何時間も、何日も楽しませてくれるのですから、本代は決して惜しむべきものではありません。

娘は月に三冊ほど、「課題図書」を渡してくれます。さすがに全部読むのは大変ですし、好みもありますが、なるべく読むようにしています。

自分の好きなジャンルだけでなく、普段は手に取らない作品を読むことで、視野を広げることができますからね。

そして今回は、まさにストライクゾーンでした。

馬伯庸の『長安のライチ』です。

馬伯庸は近年、中国で最も勢いのある歴史小説家の一人です。日本でも『南京十五日』が評判を呼びました。

ストーリーは単純。だからこそ面白い。

楊貴妃が新鮮なライチを食べたいと望み、その命令が上意下達で主人公にまで降りてきます。

皇帝の特使という役目は役得も大きく、誰もが欲しがる仕事です。しかし今回は違います。ライチの賞味期限はわずか十一日。その間に産地から長安まで届けることは不可能と言われています。失敗すれば待っているのは死。誰も引き受けたがりません。

たまたま役割を決める日に休暇を取っていた主人公は、欠席裁判のような形で特使を命じられてしまいます。

主人公は計算が得意な理系頭。詩は書けず、字も下手。当時の文官としては決して花形ではありません。しかし、その優れた計算力と分析力を武器に、不可能と思われた任務へ挑んでいきます。善良な人柄にも好感が持てました。

作者があとがきで書いていますが、本作は邦画『引っ越し大名!』や『超高速!参勤交代』からヒントを得たそうです。

要するに、歴史は為政者の意思によって動くように見えても、実際には、その陰で実務担当者が悪戦苦闘しながら動かしているということです。

私はこういう歴史観が大好きです。

中国では映画化され、大ヒットしたそうです。日本でも上映されているようです。

私にとっては、今年上半期に読んだ本の中で一番でした。

ぜひ、お薦めしたい一冊です。

そういえば、ライチについては私も以前、漢詩を作ったことがあります。本書を読みながら思い出したので、最後に紹介しておきます。

第一首

原文

荔枝

荔枝摘下掌中輕
一口酸甜香氣清
難怪貴妃千里外
屢求鮮果大唐傾

書き下し文

荔枝(れいし)
荔枝(れいし) 摘(つ)み下(お)ろせば 掌中(しょうちゅう)に軽(かろ)し。
一口(ひとくち)すれば 酸甜(さんてん)にして 香気(こうき)清(きよ)し。
怪(あや)しむに難(かた)からず 貴妃(きひ)の 千里(せんり)の外(ほか)より、
しばしば鮮果(せんか)を求(もと)め 大唐(だいとう)を傾(かたむ)けしことを。

訳

ライチは摘み取ると、手のひらに乗るほど軽い。
一口食べれば、ほどよい酸味と甘味が広がり、香りは爽やかである。
だからこそ、楊貴妃が遠く千里の彼方から新鮮なライチを何度も取り寄せ、
そのために唐の国中を奔走させたという話も、もっともだと思われる。

第二首

原文

君王盡日想蛾眉
千里長安送荔枝
閒話休談嘗一口
清香甜味兩相宜

書き下し文

君王(くんおう) 尽日(じんじつ) 蛾眉(がび)を想(おも)う。
千里(せんり) 長安(ちょうあん)へ 荔枝(れいし)を送(おく)る。
閒話(かんわ)は談(かた)るを休(や)め、 一口(ひとくち)嘗(な)めてみよ。
清香(せいこう)と甜味(てんみ)と 両(ふた)つながら相(あ)い宜(よろ)し。

訳

皇帝は一日中、美しい眉を持つ貴妃のことばかり思っている。
そのため、はるか千里の道を越えて長安へライチが届けられた。
そんな昔話はさておき、まずは一口味わってみよう。
爽やかな香りと甘い味わいが見事に調和している。


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